2年前、滋賀県彦根市の和菓子屋さん『菓心おおすが』のロゴマークのリ・ニューアルの仕事に関らせていただいた。
三代目店主のご夫妻から「すごく新しく変えてではなくて、今より少し軽やかな印象で…」というご希望を聞いてお引き受けするこことになった。
今月、本店が改装されて新しいものになった小さな看板を壁に記されたとのこと。
自分の仕事でよく竹ペンを使って書いていたので、和菓子ということで同じように書こうと思ったけれど、ロゴマークを描くペンに意味が欲しいと思った。
お店の先代が「材料はええもん使わなあかん」という想いを目には見えない部分でも大切にしたいという三代目の志に、地元の彦根藩井伊家の「橘紋」に因んで橘(たちばな)の枝で書くことにしようと考えた。
ガーデナーをしている友人に橘の枝が手に入らないかと聞いたら、橘は珍しいのでなかなか見つからないという返事だったが、二ヶ月程過ぎた頃に何本か橘の枝が届いた。
送ってもらった橘の枝の先をナイフで削ったらふわっと橘の香りがして、その香りに集中させてもらって一気にいくつか文字を書き上げることが出来たが、お二人が選ばれたのは私が『菓』の文字が美味しそうに書けたかなと思った文字だった。
デザインの打合せが終わった時に、「私達、まだまだなんです。もっと勉強してゆかなければ…」とつぶやかれたその想いをカタチに表そうと、お二人に様々な大きさで丸を描いていただいてそれぞれ選んでもらった丸を重ねた。
手で描いた二つの丸は一つには重ならないけど、重ならないことで「まだまだなんです」というお二人の精進を続ける想いのマークが出来た。
マークとロゴも配置は固定しないことにして、お茶を点てる時、棗(なつめ)と茶さじを置き合わせるように配置を整えることにした。
パンフレットや包み紙、紙袋などのパッケージにも関わらせていただいた。
紙袋は、戸を開けてお茶を一服差し上げますという想いをデザインに込めた。
包装紙は印刷はしないで風合いのある紙を使い、包みを留めるシールにロゴを記した。
マークになった二つの輪っかは、強く見えなくてもと型押しで浮き上がらせてもらった。
瀬戸内に来てからデザインする環境がずいぶん変わり、多分これが私にとって最後のデザインの仕事だと思って向き合わせてもらったが、紙好きの私が手にした時に紙から想いが伝わる引き算のデザインが出来きたとほんとうに感謝している。
後日談ですが、私の手元に届いた橘の枝は、和歌山県にある「橘本神社(きつもとじんじゃ)」の手入れ師(庭師)さんから分けていただいたものだと聞いて驚いた。
この神社は、日本で有数のお菓子の神様をまつる神社ということで何だかお菓子の神様に守られているような気がしたが、このことは後から知ってよかったと思った。もし最初にそんな特別な橘だと知っていたらきっと緊張してしまったかも。
リニューアルされた彦根の本店は、とても素敵な空間になったそうです。
ぜひ足を運んでみてください。